もっと安心で安全な保険治療をめざして
日本の国民健康保険は、どなたでも優良な医療サービスを受けることができる世界でも数少ない制度です。
保険治療では、その制度によって定められた材料や方法で治療を行いますが、素材価格の上昇や金属アレルギーへの配慮からその内容が検討され、現在ではより進んだ歯科治療も選べるようになりました。
これまでの保険治療では...
金属価格の上昇
保険治療で使用される「金銀パラジウム合金」は、加工しやすく価格も安定した素材として利用されてきました。しかし近年、合金に含まれる金やパラジウムなどの貴金属価格が高騰し、その代わりとなる金属が検討されてきました。
金属アレルギー
「金銀パラジウム合金」は、アレルギー発症のリスクが低い素材です。しかし、口の中で利用される期間や他の素材との組み合わせ、また体質の違いなどの個人差により、場合によっては金属アレルギーを発症してしまったとの報告もあります。
金銀パラジウム合金とは
長期間口の中で機能する歯科補綴物には、高い耐食性や噛む力に耐える強度が必要です。また国内どこでも幅広く製作でき、さらに経済性が求められます。これらを満たすものとして、金銀パラジウム合金の成分含有率は金12%、パラジウムが20%とJIS規格で定められており、その他の成分としては銀がおおよそ50%前後、銅が20%前後、さらにインジウム、イリジウムなどが微量含まれています。
加工しやすく安価な貴金属である銀を主体とする合金ですが、銀は金に比べ耐硫化性が低い(表面が雲りだんだんと黒色に変化する)ためパラジウムが加えられています。パラジウムは融点が高い金属のため、合金の融点を下げ加工性を高めるために銅が添加されています。一方銅の添加を増やすと耐食性が低下するため金を添加しています。
金銀パラジウム合金は諸物性が比較的安定し、加工がしやすく経済性に優れる金属としてこれまで利用されてきました。一方、パラジウムは個体差はあるもののアレルギー反応を引き起こしやすいとの報告もあり、海外においてドイツでは歯科医療でのパラジウムの使用を禁止する勧告や、スウェーデンでは妊婦と小児には完全に使用禁止となるなど、脱パラジウムの動きも進んでいます。また近年の貴金属高騰により将来的な利用において代替え材料として「チタン」が検討されてきました。
金銀パラジウム合金を使った補綴物の例
金属アレルギーとは
アレルギーとは、人間が持つ免疫反応が特定の抗原(免疫反応を引き起こさせる物質)に対して過剰に起こることをいいます。その中でも金属アレルギーは比較的身近なアレルギーと言えます。
金属アレルギーの発症には個人差があり、同じ金属類であっても症状が出ない人もいれば、ひどい症状があらわれてしまう人もいます。また、金属アレルギーの症状が出るまでにかかる時間にも個人差があり、数日ですぐにアレルギーの症状が出てしまう場合もあれば、数か月後に発症する場合もあります。
歯科で利用される金銀パラジウム合金は、口の中で長期利用されることを想定しており、アレルギー発症リスクは低い組成となっています。しかしこの長期利用されるという歯科補綴物の特徴から、今症状がなくても、将来的に金属アレルギーを起こすことはあり得ます。またそれまで適用されていた歯科補綴物では問題が無かったのに、新規治療で歯科補綴物を入れたらアレルギー反応が現れたということも報告されています。
保険治療でも選べる最先端の歯科治療
日本では、国民健康保険制度により安定した品質の治療を全国どこでも、安価に受けることができます。その一方、金属アレルギーや見栄えなどを考慮した新しい素材・治療方法を選ぶと、保険適用外の自費治療となってしまい、費用が高額となることが一般的でした。
しかし近年、これまで保険治療の対象ではなかった素材や治療方法が追加、安心で安全、そして見た目の美しさと歯としての機能を併せ持つ、全く新しい保険治療の提供が可能となりました。
CAD/CAM冠(コンポジットレジン)
CAD/CAM冠は、レジン(歯科用プラスチック)とセラミックス(陶磁器)の特徴を併せ持つ新しい素材「コンポジットレジン」の塊から、CAD/CAMという機械で削り出して製作される被せ物です。従来に比べ、本物の歯に近い色調や透明感を持ち、口の中でも目立ません。また金属を使用していないので、アレルギーのリスクも下がります。
チタン冠/レジン前装チタン冠
チタン冠は、軽くて強じん、耐食性が高く、また人の体に優しくアレルギーのリスクが極めて低い「チタン」を使用し、鋳造で製作した被せ物です。保険診療のCAD/CAM冠では難しい奥歯(大臼歯部)への適用が認めらています。また前歯には、鋳造で製作したチタンの土台に、レジン(プラスチック材料)を盛り上げて製作される「レジン前装チタン冠」が適用されます。