財団法人医療関連サービス振興会主催の欧州医療関連サービス視察に参加させていただき、一路ロンドンへ。
5日はイギリスの医療事情に関し、NHSとその事業に関するレクチャーが。NHSの概要と、現在進められている医療改革の各事業として、給食サービスの改善、医療情報提供サービス、病院の新規建設の長期契約制度などにつき説明を受けました。
これまでの給食サービスの無駄とクオリティー改善を目指す「Better
Hospital Food Programme」。入院患者がいかに必要な栄養を正しく摂取することができるかに焦点を定め、24時間体制の食事提供体制の実現や、現在提供されるようになった200種を越える新メニューなど、Graham
Jacob氏により解説が。 |
続いては電話・インターネットを通じ医療情報提供サービスを行うNHS
Direct。24時間体制で看護婦が患者からの問い合わせに応えるこのサービス。夜間のプライマリケアなど、大きな効果が期待されますが、地域からスタートしたこのサービス、現在全国的なデータベースシステムの構築が進められているとのことでした。 |
これまでコスト削減にあまりにも重きが置かれ、病院数不足、効率・サービスの質の低下が指摘されていた状況を改善すべく、長期的な業者との契約のもと、民間資本を導入した新規病院建設や効率的設備への改築など、計画的な保健サービスの提供を目指すPFI
Hospitalプロジェクト。エジンバラ病院の実例を加えながら、当初のプロジェクト立案と各スタッフの意思統一の重要性をGraham
Perry氏が力説されました。 |
財源を税金で賄い、公的機関が医療サービスを提供するイギリス。医療を取り巻く事情が日本とは大きく異なるものの、現在進められている医療改革の各事業は大変興味深い内容でした。特に患者さんに看護婦さんが電話やインターネットを通し、直接医療情報を提供する「NHS
Direct」は、緊急性を要するプライマリケアなどに大きな効果が期待できるとともに、遠隔地や夜間といった場合の対応についてもスピード、コストの点で注目すべき取り組みでは。
情報の内容が専門的知識を必要とすること、またいかに患者さんから現在の状況を引き出すことができるかといったテクニック上の問題とその人材確保、現在ではあくまで寄せられた情報からの可能性を示唆するに止められる情報提供範囲につき今後の展開、資格制度・職域といった検討課題がまだまだあるようですが、イギリスでのこうした取り組みが、将来に日本に同様のサービスが導入される際の大きなヒントとなるように思われました。
場所を移動し、ロンドンより一路マルタ島へ。
聖ヨハネ騎士団上陸前、マルタの都であったイムディーナはいまでも当時の面影を色濃く残し、ひっそりとした路地を一歩入ると、時間が止まったような錯角に捕われます。 |
ローマでは医療制度概要、イタリア国内の医療/介護サービスの現状につき講議、視察が。
朝はローマにて開業をされる中田先生より、イタリアの医療制度に関してレクチャーが。イタリア医療事情の概要からスタートし、抱えている問題点や、それを改善するための医療保健単位の事業体化、病院組織の再編、公立医療の縮小といった取り組みが紹介されました。 |
続いてはイタリア医師会連合会、メ・タンドリ氏により、イタリア医療制度の体系に関する説明が。イタリアでのUSLを通じた最低限の医療の補償と、ニーズに合わせたプライベート診療を中心とする医療サービスの提供といったイタリアならではの構造につき解説がありました。 |
午後はNPOのデイケア/ショートステイの自立支援施設、Cooperativa
Nuova Socialitaを訪問。 |
会長兼事務局長を務められるIacente氏より、事業内容について説明があり、イタリアでの介護事業の実体についてレクチャーを受けました。こちらでも前出の中田先生が通訳とともに、分かり易く噛み砕いた解説を加えていただきました。 |
同施設では利用者の方による創作活動が大変活発で、こうしたアートワーク製作だけではなく、利用者の方の企画・出演による芝居の上演といったイベントも。同施設案内パンフレット作成なども手掛けるなど、単なる介護サービスの利用者に留まらず、主体的な活動が行われていました。 |
カタコトのイタリア語でお話させていただいたところ、みなさんの作品を紹介していただくなど楽しい一時を。日本でも同様の取り組みはあるものの、少々受動的に過ぎるといった感もあったのですが、こちらではみなさんそれぞれが大変積極的・自発的で、とても明るい印象を受けました。 |
ローマではイタリアの医療制度概要、内包する問題点とその改善への取り組みといった点に関する講議を受け、イタリアならではの特徴とともに、日本の医療の現状との共通点、今後の医療制度改革へのヒントといったものを知ることができました。
またローマ市内の介護施設「Cooperativa Nuova Socialita」を見学をさせていただきましたが、デイケア、ショートステイを行う同施設、当初イタリアの国民性に合致する家族支援のための組織なのかと考えておりましたが、日本同様核家族化が進むイタリアでは、より積極的に自立支援を促すことを目的としているとのこと。
お話をさせていただいた利用者の方々も、単に福祉サービスを受けるということではなく、自らが率先して施設内での活動に携わり、積極的で明るい雰囲気を共有されているという点が大変印象的でした。施設自体の運営はNPOとしてコムーネと呼ばれる市区町村の自治体との協力体制の元で行われており、地域のコーディネーターを通し、サービスの質・量、かかるコストの両面において適切なサービス提供がなされていました。
日本でも介護保険制度がスタートして以来、サービスの質とコストといった点が議論されてきましたが、地域に根ざし、「多過ぎず少な過ぎず」を実践するイタリアのこうした介護サービス、高齢化/少子化/核家族化といった同様の状況にある日本でも、専門外ながら参考となる点が多いように感じました。
ローマでの日程を終え、ミラノへ。
ミラノのシンボル、ドゥオーモ。正面は残念ながら補修工事中でしたが、建物裏側からの景観も見事の一言。 |
初日夕方はミラノ市内にて開業されている森下先生より、イタリアの医療事情のレクチャーが。基本的には概要と質疑応答でしたが、病院施設を日/時間にて医師が利用する契約形態といった、イタリア、それも都心部ならではのスタイルなど、大変興味深いお話も。 |
翌日はミラノ郊外で医療施設向けリネンサプライを行うPadana
Everest社を視察。創業30年の同社は1980年代に医療用サービスに業態をシフト。病院のアウトソーシングニーズに合わせ事業を拡大し、現在イタリアでも6番目の規模を誇ります。 |
森下先生のレクチャーでは、先にローマで行われた中田先生の講演とはまた別の角度から、イタリアの保健医療事情につきご説明をいただきました。中田先生からもご指摘があった公的医療、自由診療の明確な分離とともに、96年のDRG導入後、保健医療の中でも高度医療のみに集中し高収益を目指す業態の出現といった動きも紹介されました。
Padana Everest社ではイタリアでのリネンサプライに関する状況を同社の事業内容を通じ解説を受けました。これまでは比較的医療機関内にて行われていた洗濯他附随する各業務が、質の向上のため診療に集中する傾向が強くなり、アウトソーシングニーズが1980年代から飛躍的に伸びているとのこと。また現在では特殊な素材への対応や、ベッドマネージンメントといった高度/包括的なサービスが求められているようです。
視察日程を終え、11日解散式となりました。視察団の団長である社団法人全国社会保険協会連合会理事長、幸田正孝先生のコーディネイトにより、通常では訪問/受講するチャンスが得られない非常に中身の濃い視察内容となり、大変勉強をさせていただいた反面、「もう少し予備知識を貯えていれば・・・」と反省しきりです。
視察団には医療関連サービスを提供する各社から企業、部門トップの方ばかりが参加され、こうした方々とご一緒させていただき、業界に関する情報、またそれ以外の点でもたくさんのご助言やご指導をいただくことができたのも、この視察での大きな成果となりました。
こうした貴重な機会をお与えいただきましたこと、幸田先生をはじめ、視察に参加されました皆様、企画をされた財団法人医療関連サービス振興会様、また株式会社ハーティー高見澤様に厚く御礼申し上げます。